映画「マイノリティ・リポート」

映画「マイノリティ・リポート」の感想と紹介、解説やるよ!
結末まで説明するネタバレなので注意。

感想

あと一歩で傑作だったのに、惜しい。前半〜中盤で描写がコミカルに寄りすぎた(どう見てもスーパーマリオな車からの脱出、ハイネマン博士の動く植物など)。クリストファー・ノーランの「インセプション」みたいな、夢のようなガジェットが実現しているが、それ以外はほぼ現代の延長くらいの世界観がよかったな。そっちのほうが真に迫る。殺人事件からのシークエンスはどきどきした。ああいう「いけるか? ……無理だった……」「無理か? ……やった、成功だ!」の積み重ねが映画を面白くすることを実感した。

ところでやっぱり、字幕がひどい。"Is it now?" を「今は現実?」と訳すとはどうかしている。「これは“今”?」でいいのに。それで観客は自分で考え、理解するんだ。「自分で」理解することが大事。そうして、思考の跳躍から納得に到達し、快感が生まれるのに。

キャラクター

  • ジョン・アンダートン:主人公。犯罪予防局の捜査官。職務に忠実に取り組む。不注意で息子が誘拐され、行方不明になった過去がある。いまでもそれを後悔している。妻と別れているが、不仲ではない。
  • アガサ:プリコグ三人のうちで最強の力を持つ。実は、もとは普通の人間で、アン・ライブリーの娘。
  • ラマー・バージェス:犯罪予防局局長。息子を死なせたジョンを、犯罪予防局の正当性主張に利用している。知的な老人。
  • ダニー・ウィットワー:法務局の職員。法務局長官代理の権限でプリコグを調査する。
  • ララ・クラーク:ジョンの元妻。郊外に邸宅を構える。

設定とコンセプト

 近未来。三人のプリコグ(=予知能力者)によって殺人が予告される世界。未来の自分の殺人を予告された捜査官は、自分の冤罪を証明するため、プリコグの謎に迫る。

ストーリー

ピクサーの「脚本の書き方講座」にのっとって、3章構成でまとめてみた。
ピクサーの「脚本の書き方講座」紹介:http://d.hatena.ne.jp/morisawajun/20110124/1295865901
うろ覚えなのでもしかしたら間違っているかもしれない。注意。


・序(発端)
 ジョン・アンダートンは、犯罪予防局の捜査官。プリコグの予告した殺人事件を、未遂の段階で予防するのが職務だ。
 犯罪予防の仕事を終え、家に帰ったジョンは、すでにいない息子のビデオを見て感傷に浸る。息子を死なせてしまった後悔が、彼を捜査官たらしめているのだ。犯罪予防局局長のラマー・バージェスも彼に目をかけている。プリコグによる犯罪予防は、完全な国民の信頼を得ているわけでなく、賛否両論であり、法務局からは批判されている。
 法務局員のダニー・ウィットワーによるプリコグの検査にジョンは同席する。検査を終えたあと、三人のうち最大の力を持つアガサが異常な行動を見せる。突然ジョンに抱きつき、こう言うのだ。「あれが見える?」。“聖域”に映されたのは、殺人の現場だった。
 見えたビジョンから、ジョンはプリコグの予告したアン・ライブリー殺人未遂事件について調べる。過去に起こった事件で、すでに解決済みだということがわかった。ただ、アガサの殺人予告がなく、おそらくは少数意見(マイノリティ・リポート)として無視されたことがジョンの気にかかった。ここで、管理人の言葉から、事件のビジョンが時系列に前後して何度かプリコグの脳内で再現されることが説明される。

 ここで、状況は急転する。ジョンが計画殺人の犯人として予告されたのだ。このまま捕まるか、逃亡するか? 当然、逃げる。


・破(葛藤)
 ジョンは犯罪予防局から逃げ、プリコグの創始者の一人であるアイリス・ハイネマン博士を訪ねる。ハイネマン博士に、少数派の予言は無視されることを聞き、自分の犯罪予告が間違いかもしれないとジョンは期待する。マイノリティ・リポートの情報が入っているのはプリコグの脳内。ジョンは、プリコグへの接触を決心する。
 最も能力が強く、異常な様子から、特別ななにかがありそうなアガサから情報を得るため、犯罪予防局内に潜入を試みる。網膜走査を乗り越えるため、眼球を入れ替え、変装して潜入に成功。アガサを局内から連れ出す。
 犯罪予防局の追跡をアガサの予知能力で振り切り、脱出する。アガサの記憶を再生しようと、「夢を見る娯楽」の施設でアガサの脳を調べるが、ジョンの殺人はアガサも予告していたことがわかる。このとき、アン・ライブリー殺人未遂事件のビジョンが映される。
 ジョンは真実を解明するため、アガサの制止を無視し、予言の「殺される男」に接触を計る。予告された殺害現場のホテルに到着。部屋は無人。ベッドには写真がまきちらされていた。何人もの子供たちの顔写真、そのなかに、ジョンの息子のものを発見する。「殺される男」は息子を殺した犯人だった?
 「殺される男」が部屋にやってくる。激情に駆られたジョンは彼に銃を向ける。「殺される男」は息子の殺人を自白する。
 憎しみのもとに、男を殺すか? と思われたが、葛藤の末にジョンは銃をおろす。安堵するアガサ。ジョンは捜査官として男を逮捕しようとする。だが、男は慌てて言った「それではだめだ」。ここで男が殺されないと、報酬が出ないというのだ。男は犯人ではない? 考えてみれば部屋の状況は不自然だ。なぜベッドに写真をばらまいている? 男が犯人だと思い込ませるための罠では?
 男はジョンの銃を使い、自分を殺させる。予告された殺人が完遂された。ジョンはアガサをつれて、別れた妻のところへ逃げる。


・急(解決)
 別れた妻、ララ・クラークのもとに身を寄せたジョンは、ある真実に到達する。アガサの見せたビジョンの意味を理解したのだ。あの溺死殺人事件には秘密がある――ジョンはララに伝えるが、そこに犯罪予防局が到着し、逮捕されてしまう。助けてもらおうと、ララがラマーに連絡していたのが裏目に出たのだ。
 プリコグを調査していたダニーは、ラマー局長を問い詰めていた。アン・ライブリー殺人未遂事件において、プリコグの、ビジョンの再現繰り返しを利用した殺人が行われたのだ。そこで殺されたアン・ライブリーはアガサの母親。そして犯人はラマーだった。愉快そうに推理を披露したダニーを、ラマーは殺す。
 悲しむララを、ラマーは「ジョンの逮捕はプリコグのためになる」と慰める。ララが、ジョンが逮捕される間際に告げた溺死殺人未遂事件のことをラマーに話す。ラマーは質問をうやむやにしようとし、「ええと、なんだったかな、その、溺死殺人の被害者は」と口にしてしまう。溺死とは一言も伝えていないのに。ララは真実に気づく。ラマーが犯人なのだ。
 ララは収容所に赴き、ジョンを救出する。アガサのビジョンを、ラマーが主役のパーティーで再生し、殺人の証拠を賓客たちに見せつける。
 ラマーはジョンを殺そうとする。ラマーとジョンの対決。プリコグはこのとき、ラマーの衝動殺人を予告する。プリコグの予告通りにジョンを殺すとラマーは破滅する。だが、殺さないとプリコグの予告に背くことになる。葛藤の末、ラマーは自害する。
 プリコグ制度は廃止され、プリコグたちは新たな自分の人生を歩む。ジョンとララは平穏な生活へ戻る。


 まとめてみると、かなり複雑なストーリーだ。

  1. ジョンの殺人予告
  2. ジョンの息子誘拐事件
  3. アン・ライブリー殺人事件とプリコグの秘密

 これらの謎を解き明かすために、ジョン(と、終盤はララ)が未来世界を走り回る。当初は1がメインに思えるのだけど、実際は3が物語の中心にあり、1はジョンを駆動させるための理由づけに過ぎない。
 2は1の解明と、根源の謎にはあまり関わらないが、ジョンの行動ルールのために必要。3のミステリーだけではジョンが当事者たち(アガサやアン)に共感しにくいので、ジョンの人格に根ざすこういう動機づけは大切である。息子が誘拐されたジョンと、母が殺されたアガサという共通点での関わりが、ジョンがアガサを救おうとする理由になる。
 3は、物語の設定に関わる根源的な謎。これを解決しつつ、気持ちよく敵をやっつけるのが映画の目標地点となる。